財団法人立川市地域文化振興財団 インタビュー
■たちかわ狂言の会(2001年10月)
茂山千作

たちかわ狂言の会
茂山千作さん
 しげやませんさく

★プロフィール★
5歳の時、狂言「いろは」のシテにて初舞台以来、秘曲「枕物狂」に至る流儀のほとんどを勤める。昭和41年十二世千五郎を襲名。以後、数々の賞を受賞するが、平成元年には重要無形文化財各個指定(人間国宝)に認定される。平成6年千五郎の隠居名である千作を襲名、四世千作となる。平成12年には、狂言師として史上初めての文化功労者となる。


 10月14日の「たちかわ狂言の会」に出演する茂山千作さんと、5月30日に国立能楽堂にてインタビューを行いました。 

Q:茂山千五郎家「お豆腐主義」とは?
A:明治維新後、私の爺さん(二世千作)も、禄を離れ、生活にも苦労したらしんですわ。そこで、一人で多くの御方に狂言を見てもらおうと、お祭りや結婚式の余興に、狂言をしに行ったんですわ。それを、頭の固い仲間から「なんや、茂山はもうどこへでも行きよると。なんやお豆腐みたいなやっちゃな」と言われましてね。
 お豆腐は、高級な料理や庶民的な冷や奴、湯豆腐でいただくこともあります。また、「余興に困って茂山の狂言に頼んだら、そつのうやってくれる」と、能舞台ではカチッとしたものを、町内のお地蔵お盆の余興には子供さんがわかるような狂言をやるわけですね。「お豆腐と言われるのは大変結構なこっちゃ」と、若い者が「お豆腐主義」と言うてやっております。


Q:お孫さん(TOPPA!)等、若手の活躍はいかがですか?
A:私も今の鴈冶郎さんや富十郎さんとの共演、テレビ出演、新作狂言と新しいことをやってきたもんです。ああいう方と一緒に芝居をさせてもらいますと、我々の知らなかった台詞回しとか教えられることが多々ありました。それが、「ええな。うまいことやりおるな」と思うて、こちらの演技にもある程度入っているんじゃないかと。
 昔、私らは物堅い古武士みたいな方に、「なんや、能楽師があんなもんに出よる。けしからんやっちゃ」と言われましたが、今の若い者に良い役をやってもらうのは、「あれは狂言する人や。はあ〜、狂言っちゃどんなもんやろ」と思う人もあるので、活躍してくれるのは大変に結構やと思います。ただし、出る前にちゃんと一人前の狂言を自覚して、自分で稽古してできるようになってから出てほしい。出ながら狂言のことを忘れずにやってほしいと思いますね。
 私の孫に逸平がおりますけど、この間「オードリー」に出てました。そやから「狂言忘れるなや」と言うてます。

Q:
関東・関西の狂言に違いはありますか?
A:大蔵流の狂言をしておりますので、ほんとは誰も違いはないはずです。六義(台本)の通り、昔からある型とか歌い方をやっておりますが、関東の方は、いにしえの式楽的な要素が随分残っていて、昔のお城でやっておった伝統的な狂言をそのまま継いで、個人的な芸風をやっておられますね。
 昔から関西の方はお客さんへのサービス精神が旺盛で、わりと庶民的な、お客さんによくわかっていただくような狂言をやるように務めてます。また、狂言は喜劇でございますから、面白くお見せして、「また見に来てやろか」という風に持っていきたいと。そこの違いがあると思うてるんです。
 狂言には昔から決まった型や台詞もありますけど、それ以上にお客さんによくわかってもらうような工夫をしてますね。そやから、東京の御方には「ギャー、関西の狂言はジャラジャラした、衒(てら)いとかそういうのばっかりを求めてやっていく。狂言の本道ではない」という風に言われておるかもわかりませんけどね。こちらも足を踏み出さない程度にやっておるわけです。

Q:狂言と現代の笑いとの違いはありますか?
A:今の吉本とか松竹新喜劇などとは本質的に違うと思います。あれは人を笑わす為の芝居ですわな。もういらんことにズッコケてみたり、思いっきりオーバーに演技をして人の笑いをくすぐる。狂言では、それはあまりしませんな。自然と笑いが湧くという、従来の台詞回しとか型をしながら、笑っていただくことを求めてますね。こっちは古典ですから、洗練された雰囲気を笑ってもらうとかね。そういう風に思うてはりますな。

Q:
「学校狂言」を行われているそうですが、子供たちの反応はいかがですか?
A:
戦後、私らも兵隊から帰ってきた時分は、狂言を見てもらう御方も会場もほとんどなかったんですね。幸い、学校の教科書に狂言がありましたので、実際の狂言を見てもろうたら一番いいんじゃないかと、学校へ出張をやりだしたんですわ。
 荒れた学校なんか行きますと、みんなザワザワして、先生がおっしゃるから見ておる生徒が多かったですね。それを何とかしてこちらに気を引きつけようと、大きな声で「ワー」と怒鳴るような声で脅してやりましたんで、こんな声になってしまいました。それまでは、なかなかいい声でしたよ。体育館も荒れてまして、ステージ代わりにピンポン台を並べて、それを釘付けしてその上でやりましたな。まあ、そんな苦労もございました。 
 しかし、中には「ああ面白いもんや」と喜んでくれることもたくさんありましてね。今でも「私、子供の時分に、狂言を拝見しまして面白かったですよ」と、また見に来てくれる人もいらっしゃいますね。

Q:
今回の演目の見所は?
A:『萩大名』は、無骨一辺倒で風流心のない田舎大名が、京都の庭を拝詣してトンチンカンな誉め方としたり、歌を詠まされた時になかなか歌が覚えられないで大失敗するんです。だから、大名の性格を、トンチンカンな誉め方とか歌を忘れて太郎冠者に聞くという演技を見ていただけたらいいですね。
 『素袍落』は、太郎冠者が主人のお伊勢参りのお供をし、叔父さんから引き出物の素袍をお土産にもろうてきますんですね。嬉しさのあまりお酒を飲んで段々酔うてね、主人の悪口まで言い出すわけですね。お酒に酔って愉快になっている太郎冠者の気持ちを見ていただいたら一番結構なんですね。
 『梟』は、SFみたいな狂言ですね。梟が体に乗り移った病人を、山伏がいくら祈っても治らず、最後に山伏までが梟に取り憑かれるという狂言なんですわ。その時分の山伏さんは非常にありがたい人で、権力を持ってますな。しかし、中には威張ってるけれども墓穴を掘ってどうもならん山伏もいるわけです。狂言に出てます坊さんでも山伏さんでもみんな威張っとるんだけれども。まあ、そういう風に見ていただけたら。